在庫の「適正」は、一年中同じではありません。
商戦の前は、多少の在庫リスクを取ってでも厚く構えたい。決算・棚卸しの前は軽くしておきたい。倉庫の改装中は物量を抑えたい——。どれも合理的な「時期の意思」です。問題は、この意思を発注に反映する方法が、多くの会社で号令と手作業しかないことです。
この記事では、時期による在庫水準の切り替えを、年間の計画として設定し、発注が自動で追随する体制の作り方を解説します。
やりたいことの整理
「時期による在庫水準の切り替え」の要件は、次の4つです。
- 水準の計画がカレンダーで表現できる:「◯月◯日〜◯日はこの水準」という期間指定で、積み上げ・圧縮の意思を設定できる
- 発注が計画に向かって滑らかに動く:切り替え日当日にどか発注・急ブレーキではなく、計画水準へ向けて日々の発注量が徐々に調整される
- 絞っても、売れる分は守られる:圧縮期間中も商品ごとの需要予測が生きていて、一律カットにならない
- 期間が明けたら自動で戻る:「絞ったまま戻し忘れて期明けに欠品」が構造的に起きない
前提として大事な区別があります。毎年の需要の波(夏物・冬物・年末商戦)は、ここで言う「切り替え」の対象ではありません。それは出荷実績から自動で学習される領域です(→季節性・昨年実績の考慮)。計画すべきは、需要とは別の「自社の意思・都合」——決算、倉庫都合、戦略的な構え——だけです。需要は学習、意思は計画。この線引きを間違えると、季節の波を手動計画で二重に織り込んでしまいます。
手作業でやると、こうなる
号令と手作業による水準切り替えの典型は、こうなります。期末が近づくと「在庫を絞れ」の号令が出て、担当者が発注を目分量で減らす。売れ筋まで絞られて欠品が出る。期が明けても、忙しさに紛れて発注量を戻し忘れ、欠品が続く。慌てて積み戻すと、今度は過剰になる——。
商戦前の積み増しも同様です。「いつから・どのくらい構えるか」が担当者の感覚頼みのため、開始が遅れて商戦前半に欠品するか、早すぎ・多すぎで商戦後に在庫が残るか、のどちらかに振れがちです。号令は「方向」しか伝えられず、商品ごとの量とタイミングへの翻訳が全部人力になる——これが手作業運用の構造的な限界です。
「α-発注」での実現方法
設定:年間の「意思のカレンダー」を計画にする
期間を指定して在庫の目標水準を計画します(→仕様の詳細は在庫レベル計画)。商戦前の積み上げ、決算前の圧縮、倉庫改装中の抑制——年に数回ある「時期の意思」を、あらかじめ年間カレンダーとして設定しておく運用です。
商品軸の方針(→商品グループごとの在庫方針)と重ねれば、「最重要グループは決算前の圧縮対象から外す」といった掛け合わせも設定で表現できます。
毎回の発注:計画に向かって、商品ごとに調整される
日々の発注計算は計画を参照し、指定期間に向けて在庫が計画水準に近づくよう推奨発注量が調整されます。圧縮も商品ごとの需要予測の上で行われるため、「軽くしながら、売れる分は確保する」動きになります。期間が明ければ自動的に通常水準へ戻り、戻し忘れは起きません。
人がやること:計画の設計と、結果の確認
人の仕事は、水準切り替えの意思決定(いつ・どの範囲を・どの程度)と、計画どおり動いているかの確認です。在庫の推移は管理画面で継続確認できるため(→在庫・発注の品質分析ページ)、「絞れているか」「構えられているか」を数字で追えます。
活用イメージ:中元・歳暮の山と決算前圧縮を年間計画にしたギフト・生活雑貨卸
ギフト・生活雑貨卸のAF社(商品点数 約4,000、中元・歳暮の2大商戦と2月決算。商戦の需要は毎年の波、決算前圧縮は自社都合)のモデルケースです。
導入前:商戦前の積み増し時期を決める際、経験豊富な担当者の知見をチームで共有する仕組みがなく、開始時期が年によってぶれていました。決算前は「在庫2割減」の号令で一律に発注を絞り、売れ筋の欠品や期明けの設定戻し忘れが繰り返されていました。
導入後:中元・歳暮の需要の波は季節性の学習に任せ、計画するのは「決算前の圧縮」と「商戦前の構え(戦略的な上乗せ)」だけに整理。年間の在庫レベル計画として期初に設定し、期中は推移の確認に絞りました。
変化:決算前の圧縮が号令から計画になり、売れ筋を守ったまま期末在庫を軽くする形が定着。期明けの戻し忘れ欠品は消滅し、「いつから構えるか」の議論は感覚ではなく計画カーブの設計としてできるようになりました。
よくある質問
Q. 季節商品の立ち上がり・終売のタイミングも、この計画で扱うのですか? A. いいえ。商品の季節の波そのものは出荷実績からの自動学習が受け持ちます。計画で扱うのは需要とは独立した「自社の意思・都合」だけです。この区別が曖昧なまま両方を手動計画にすると、季節の山を二重に織り込む事故が起きます。
Q. 圧縮の水準はどのくらいに設定すべきですか? A. 「どこまで絞れるか」は商品構成と欠品許容の方針次第です。守る商品グループを先に決め、圧縮の主対象を過剰・滞留側に置くのが原則です(→「在庫を減らせ、でも欠品はさせるな」の板挟み)。水準の設計は運用診断でご相談ください。
Q. 期中に計画を変えたくなったら? A. 計画は設定の変更で見直せます。急な倉庫都合・資金都合が生じた場合も、号令と手作業ではなく計画の修正として反映できるのがこの運用の利点です。
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関連ページ
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